2020/06/06

授業紹介(その6)-大学経営政策研究(研究法)

 「大学経営政策研究」というのが科目の正式名称ですが、似た名称の科目が多いので「研究法」と呼んでいます。その略称の通り、研究の方法論について学ぶ授業です。コース専任教員の共同授業で通年科目です。受講生は修士1年・博士1年が中心ですが、それ以外の学年の履修も可能です。

 はじめに教員それぞれの立場から、研究や論文についての考え方を講義します。私の場合、アメリカの大学で用いられている論文ガイドの日本語訳を用いて、研究関心を論文の課題に落とし込む方法や、研究へのアプローチの仕方、論文執筆への取り組み方などを講義しています。その後は学術論文の精読を通して、研究の考え方や論文の読み方を学びます。

 次に、各受講生の関心に近い論文をいくつか選び、より自分の関心に即した論文を読むことを通して、論文の読み方を深めるとともに、先行研究の批判の仕方やそれを踏まえた自分の研究テーマの位置付け方を学びます。

 以上を踏まえて、年度の最後には、各自、自分の研究の構想発表を行います。学生たちは、以上の一連の作業を通して、翌年以降の論文執筆へとステップアップしていきます。

2020/06/02

授業紹介(その5)-学部科目

 大学経営・政策コースは大学院だけのコースですが、例年、最低一科目は学部科目を担当するようにしています。学部での講義は、大学院とは学生層が違うので、同じテーマを扱う際も視点を変えるなど工夫をして講義に臨んでいます。

 これまでに担当した科目は、高等教育概論、教育社会科学演習、教育・文化・社会です。また、駒場キャンパスで高等教育論入門を担当しました。

 例えば、高等教育概論は、高等教育に関する学部生用の概論科目です。比較教育社会学コースの先生方と2017年度から3年間、担当してきました。私は主に大学教育の内容について、日米比較の観点から講義を担当しました。学部生科目のため、学生たちには、大学受験生や大学生としての自分の経験に立脚しながら、大学・高等教育について考えてもらうことを心掛けています。これまでに、日米の大学の歴史、大学の多様性、入試制度、専門の選択、カリキュラムと学生生活、授業料と奨学金などをテーマとして取り上げてきました。

 平日の授業となりますが、大学院生も受講可能です。

授業紹介(その4)-大学経営政策論文指導

 コース専任教員による集団論文指導科目です。大学経営・政策コースの論文指導の大きな特徴は、コースの全学生の論文指導に全教員が関わるということにあります。

 また、正規の論文指導の時間とは別途、学生個々人に対するチュートリアル(個人指導)を重視しています。やはり直に語り合うことで、その学生が考えていることをより深く理解できることが多いです。学生自身の関心が何より重要ですが、なぜそのテーマに関心を持つのか?という本人の出発点を論文の視点に落とし込めるような指導を心掛けています。今後、どんなテーマを選ぶ学生が出てくるのか、楽しみです。

 研究テーマが近い複数の学生を一緒に指導する形式も時々取り入れています。今後は、学生間で意見を交換し合えるこうした形式の指導をより多く取り入れたいと考えています。

 やや欲張りな願いかもしれませんが、学生には関心やテーマの合う教員から指導を受けて研究を深めると同時に、他の教員の指導によって視野を広げることにも取り組んでほしいと思っています。

授業紹介(その3)-大学経営政策各論

大学経営政策各論は、複数の非常勤講師の方と共同で行う授業です。私はコーディネータ役が中心ですが、数回の授業を担当しています。「各論」だけあって、毎年まとまったテーマを立てて、講師の皆さんの専門の立場からテーマについて論じていただいています。

 専任教員だけでは不足しがちな広がりのあるテーマを取り上げ、さまざまな専門的視野に触れてもらうことが授業の目的です。

 私が担当した授業としてはこれまで、(1)比較大学論の理論に関する講義、(2)海外の大学経営に関するケーススタディ、(3)アメリカの地域貢献、(4)アメリカの学生支援、(5)大学の国際化・グローバル化を取り上げてきました。

 (1)比較大学論の理論では、M・トロウ、B・クラーク、J・B・デイビット、P・アルトバックを取り上げました。また、(2)ケーススタディでは、ガバナンス、学問の自由、財務と経営、大学評価に関わるケースを取り上げました。学生たちは事前に具体的事例に関するケース教材を読み、分析を行った上で、授業で相互の考えを議論しました。ケーススタディは準備がたいへんでしたが、また折を見てチャレンジしてみたいと思っています。

 (3)から(5)では、講師の皆さんの講義内容をつなぐような、導入あるいは補足的講義を行いました。私自身がいろんなことを学ばせてもらっている科目です。

授業紹介(その2)ー比較大学経営論(海外集中講義)

 比較大学経営論は、海外の大学を訪問して、現地の大学人から講義を受ける集中講義科目です。例年、7月の最終週を使って開講しています。(2020年度はコロナの影響で、2021年1月か2月に延期しました。)

 これまで、カリフォルニア大学バークレー校、ペンシルバニア州立大学を交互に訪問してきました。講師陣は、現地の大学管理職と教員、専門職員の方々にお願いしています。テーマは多岐にわたっています。カリキュラムと教育実践、ガバナンスとマネジメント、財政、学生・学習支援、アドミッション、IR、研究支援、国際化など、その年に参加する受講生の関心を聞きながら幅広いテーマでセッションを設定しています。

 一週間、午前・午後にわたるセッションを行います。それに加えて、講師陣との食事会、キャンパスツアー、スポーツ観戦、ショッピング、街観光などのイベントも設定しています。コースの修了生にも参加をオープンにしており、毎年数名の修了生が参加しています。一週間、海外で行動を共にすることで、学生同士のつながりが深くなるメリットもあります。



授業紹介(その1)ー比較大学論

 「比較大学論」は、私の担当する科目の中で基本となる科目です。私は比較と歴史の2つのアプローチを重視していますので、比較・歴史の思考法について学び、そのあと、主にアメリカの大学を題材としながら、大学と高等教育を巡る概念、歴史的変遷の中で生じた様々な議論、現代の大学問題に通じる論点などを学んでいきます。詳しい内容については下のシラバスをご覧下さい。

 この授業のひとつの特徴は、反転授業の方式を取り入れていることです。2015年から始めました。二つ理由があります。大きな理由は、当コースの学生はキャンパスに来る日数が限られているため、できるだけ授業中に学生間の討論と、学生による発表・質疑応答の時間を確保したいと考えたからです。そのため、自宅や通勤時間に講義を聴いてもらい、また予復習が効果的にできるよう、YoutubeとGoogle Classroom、Dropboxを使った講義と資料の事前・事後配信を行ってきました。

 もうひとつの理由は単純に授業時間が足りないことです。これは私の話が長いこと(としゃべりが遅いこと?)が主な原因なのですが、授業の中で、講義、討論、発表と質疑応答を行っていると、既定の授業時間がすぐに過ぎてしまいます。授業延長を避けるため(と言いつつ、反転授業導入後も授業が延びることがしばしばありますが)、授業時間の外に出せるものは外に出そうという発想に至りました。2020年の現在はともかく当時はまだ反転授業という言葉が出始めた頃でしたから、決断するまでずいぶん迷いました。結果的にはその後も続けることができたので良かったと思っています。

 この授業では、学生たちは海外の大学について各自の関心に立脚して調べたことを授業の中で発表し、期末レポートを書きます。テーマによって、学生の発表が授業の一部になることもあり、そうでない場合も比較・歴史の観点を広げる材料になります。

 授業を通して、比較・歴史の観点から大学に関する知識が身に付きますが、授業の目標は、知識の習得ではなく、それを元に学生たちが大学に関する見方を広げ、転換させることにあります。比較という横軸と歴史という縦軸を使って、自分にとって当たり前となっている大学像から離れて、大学に対する思考を広げることを重視しています。


2019年度比較大学論シラバス

2020/06/01

大学経営・政策コース受験希望の方へのメッセージ

 私が所属している大学経営・政策コースには、現在および将来の大学と高等教育を担う人材である大学職員、政策担当者、大学教員、管理職をはじめとする多様な属性を持った人たちが入学してきます。高等教育の研究者や職員を目指すフルタイムの学生と留学生もいます。また、大学外部の教育産業や金融機関、シンクタンクなどに勤務している人たちもいます。所属先だけでなく、経歴、年齢や出身大学、学部時代の専攻もさまざまで、非常に多様性に富んだコースです。

 大学と教育に対する強い関心を持った意欲的な学生たちが集まり、多彩な経験と関心を活かしながら大学院での学習と研究を行っています。私は実践を意識しつつもアカデミックな立場から教育内容を提供し、学生たちの大学像を広げ、かつ深めることを重視しています。

 大学に関わり、大学について考えようとする多くの人たちにこのコースで学び、自分を高めてほしいと願っています。

私の研究関心

 私は、アメリカの大学を対象に、比較および歴史の手法を用いて研究を行っています。アメリカの大学は、日本の大学改革のモデルとして政策的立場から関心を持たれていますが、私はより学術的な立場からアメリカの大学にアプローチすることで、大学に対する豊かな視点を得ることができると考えています。歴史的にアメリカの大学では、教育、研究、社会サービス、組織編成などについて、多様なアイディアが提起され、様々な取組が行われてきました。そのダイナミズムを追うことで、大学のあり方について思考することのできる魅力的な知識の宝庫であるといえます。アメリカの大学の考察を通して、大学一般のあり方により深くアプローチすることが研究の目標です。

 研究課題は、大学教育の中核である学士課程教育ー教養教育と専門教育ー、および大学院教育ー研究者養成と専門職教育ーについて、その根源的あり方を探り、理論化の方途を探ることです。合わせて、大学という知的共同体がいかに運営されるべきかに関心を持っています。また、評価や質保証という切り口を通して、大学教育とそのガバナンスのあり方について考察しています。その他、大学評価と大学間自治の主要な形態であるアクレディテーションと大学団体の歴史と機能、そして大学教授職のあり方について研究を行っています。

 このように、取り組みたい研究テーマは山積みですが、どれも大学の在り方を考える上で重要な課題であると考えています。