2021/03/31

高等教育研究叢書『教養教育の日米比較研究』を上梓しました

2021年3月、広島大学高等教育研究開発センターの高等教育研究叢書第158号として 『教養教育の日米比較研究』を刊行しました。

私が編集した叢書は、第141号『専門職教育の国際比較研究』、第149号『カリフォルニア大学バークレー校の経営と教育』に続いて3冊目となります。

今回は、戸村理さん(東北大学)と蝶慎一さん(広島大学)にも編者に入っていただきました。

前二号と同様、大経コースの修了生・在学生を中心とする共同研究メンバーと議論をしながら書物を作っていくのは楽しい作業でした。今回はコロナ禍ということもあり、オンラインミーティングですべての会合を行い、その点でも印象深い作業となりました。

目次と著者は以下の通りです。3部構成で、1部で教養教育の理念と構造に関わる検討を行い、2部でアメリカ、3部で日本の、特色ある教養教育を行っている大学を取り上げるという構成になっています。

紙幅の限界もあり、十分に論じきれなかった点もありますが、日米で多様に展開している教養教育の姿にアプローチできたのではないかと考えています。教養教育については多面的に論じていく必要性を感じていますが、その一端となる作業は今回かなり行えたのではないかと思います。

書物の全文は近日、高等教育研究開発センターのHP上で公開される予定です。今回まとめた成果は今後、別の形でも公表していきたいと考えています。ぜひ忌憚のない批判を頂戴できれば幸甚です。


『教養教育の日米比較研究』目次と著者

「はじめに―本書の狙いと構成」 福留東土

第1部 教養教育の理念と構造

第1章 「米国リベラルアーツ・カレッジの構造と経営―機関類型と財務による素描―」戸村理

第2章 「現代日本における教養系学部の特徴―包摂性・多様性・学際性・共通性―」栗原郁太

第3章 「米国の学士課程教育におけるアドバイジング―学修成果(Student Learning Outcomes)を促進する取組として―」蝶慎一

第2部 米国の大学における教養教育

第4章 「カリフォルニア大学バークレー校のリベラル教育」長野公則

第5章 「リベラルアーツ・カレッジのサービスラーニング―ミドルベリー大学を事例として―」黒沼敦子

第6章 「砂漠の中のリーダー育成―ディープ・スプリングス・カレッジの全人教育―」丸山勇

第7章 「女子大学の存在意義に関する一考察―スミス・カレッジのケースを踏まえて―」新井恵子

第3部 現代日本における教養教育

第8章 「早稲田大学国際教養学部のカリキュラム分析」本庄秀明

第9章 「理工系大学における教養教育―東京理科大学を中心に―」府瀬川欣信

第10章「国際基督教大学のリベラルアーツ教育―「構造化する構造」その理念と実践―」田中慶

第11章「知識経営の視点からのリベラルアーツ教育―自由学園最高学部の事例から―」横原知行

「おわりに―本書の知見の要約」福留東土


2021/03/30

科研・基盤研究(B)「知識基盤社会を支える人材育成に向けた大学院教育に関する国際比較研究」

2020年度から始まった科研「知識基盤社会を支える人材育成に向けた大学院教育に関する国際比較研究」(基盤研究(B):2020~2024年度)の概要を以下のページに掲載しました。同共同研究は、教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センターの関連プロジェクトに位置付いています。

https://www.schoolexcellence.p.u-tokyo.ac.jp/esd-jpswed/

初年度は開始からコロナ禍で、予定していた海外調査を実施できませんでしたが、いくつかの研究成果発表を行いました。

今後、上記ページに共同研究のワーキングペーパーを掲載していく予定です。

2021/03/22

学位授与式

 3月19日(金)、東京大学大学院の学位授与式が行われました。今年はコロナの影響で全学の学位授与式は縮小開催でしたが、それが終わった後、研究科、コースでの学位授与式を実施しました。今年は博士課程の定期修了者がコースから2名出たため、研究科全体での博士学位授与式に私も出席しました。初めて自分が主査を務めた学生、また長年指導してきた学生を送り出したのは私にとっても誇らしいことでした。たまたまですが、お二人とも私が東大に着任した年の入学生だったこともあり、感慨もひとしおでした。

午後からはコースでの修士学位授与式を行いました。今年の修了生は8名と、例年10~15名の修了生を送り出しているコースとしては少なめの人数となりました。やはりコロナの影響もあったと思います。しかし、私は、特に大経コースのように社会人学生の多いコースでは、各自の納得のいく時間を掛けて修了してもらえばよいと考えており、決してネガティブに受け止めるべきことではないと思います。何より、困難な状況の中で立派に修士論文を書き上げた修了生8名には心からの賛辞を送りたいと思います。

これから、コース修了生としての大いなる活躍を期待しています。修了生の皆と各所で一緒に写真を撮りながら感慨に浸った一日でした。

私のカウントによれば、昨年度までの大経コースの学位授与数は185(修士174、博士11)。今年の10名を加えて、195(修士182、博士13)となりました。来年度の200の大台突破は確実です。修了生との連携をますます強めていく必要性を強く感じています。

2021/03/07

2020年度のオンライン授業

2020年度も終わりに差し掛かりつつあります。

今年度は私の教えている大経コースでも、すべての授業がオンライン開講となりました。そして、残念ながら、2021年度も少なくとも前半はこの状況が続くことになりそうです。

2020年度の新入生たちは、仲間や教員と直接会うことがかなわず、たいへんな思いをしました。彼らがこれ以上しんどい思いをしなくてよいように、また、2021年度の新入生たちが少しでも対面での交流の場を持てるように、2021年度には、コロナの感染状況を見極めながら、可能な方策を考えていきたいと思います。

一方、授業がすべてオンラインになったことで新たな展開も生まれました。一番大きな効果を挙げれば、遠隔地に住む学生たちが授業を履修可能になり、また東京まで来なくても受講が可能になったことです。大経コースには、大学などで働きつつ大学院に通うために、遠隔地から就学する人が少なくありません。そういう人たちに学ぶ機会を広げる、あるいは学ぶための時間的・経済的コストを下げる上で、オンライン授業は大きな効果を持つことが実感できました。

また、オンライン授業では、授業としての基本的な学習内容は対面授業と大差なく学べることも実証できました。授業でよく用いるグループディスカッションの方法も、Zoomのブレークアウトセッションを用いれば、対面の場合と大差なく実施できました。

他方、オンライン授業の課題は、インフォーマルなコミュニケーションにあります。授業の前後で学生同士でおしゃべりしたり、授業の後に教員のところに来て気軽に質問したり、そうした部分は、工夫すればある程度可能なのですが、対面の時と同じようにスムーズに行うことは難しいことが分かりました。これらインフォーマルなコミュニケーションは、フォーマルな授業での学びを下支えする上で重要な意味を持っていると私は思います。この課題を解消するには意図的な工夫を織り込んでいくことが大事になると思います。

今後は、オンライン授業の効果を持続させると同時に、課題を解消していく上で、対面とオンラインとのハイブリッド授業などを構想していく必要がありそうです。2020年度の経験を総括しながら、今後の授業のあり方を慎重に検討していきたいと思います。