2021/05/28

筑波大学新聞の取材を受けました

今年度より筑波大学が「総合学域群」という新たな学群を設け、大学入学時に専門を決めない形で学生を受け入れるプログラムを始めました。それに関係して筑波大学新聞のインタビューを受けました。

ちょうど授業でこのテーマを扱っているところだったので、私にとってもよい機会となりました。

以下の6-7頁に関連記事が掲載されています。

https://www.tsukuba.ac.jp/about/public-newspaper/pdf/363.pdf


 <有識者の声>

有識者は入学時に専攻を決めない総合学域群の在り方についてどう見ているのか。東京大の福留東土教授(教育学)に聞いた。(聞き手・工藤和哉)


 入学時に専攻が決まる一般的な学部・学科に進学する学生は、大学に関する知識が乏しい高校生の時点で専攻を決定しなくてはならない。大学に進学してから自分の専攻と異なる分野により関心を持っても、柔軟性のない日本の大学システムでは、学部・学科を変更することが難しい。

 総合学域群のような入学時に専攻を決めない学部・学科では大学の学問に触れてから専攻を決める。自分の専攻について考える時間が増え、多様な学問を学べるため、専攻とのミスマッチを減らすことができる。

 その場合、専攻を考えるための情報を学生に積極的に提供することが必要だ。専攻決定に関する相談ができる支援体制や助言できる人材の確保も求められる。

 一方で、一般的な学部・学科よりも専門教育を深める期間が少ないというデメリットも存在する。日本の大学は学生が「特定の専門知識をどれだけ身につけたか」を重視する伝統がある。

 だが、問題解決には複数の専門分野が必要となることが多い。知識の幅広さを評価するような基準がもっとあってよいはずだ。

 東京大では1年生全員が教養学部に所属し、一定期間の学びを経て希望する学部・学科を選択する。だが、それぞれの学科で定員が決まっている。希望する学科に進学するため、良い成績を取ろうとして、点が取りやすい授業ばかり取ってしまうことがある。学生の健全な学びを阻害するこのような「点数競争」は、同様の制度を採用する総合学域群でもあり得る。それを防ぐには、教員の成績評価方法について議論したり、定員に柔軟性を持たせたりする工夫が求められる。

 総合学域群のように一つの学群に文理問わず学生が集まり、多様性が生まれるのはとても良いことだ。多様な学生と交流し、刺激を与え合って人間的な成長に役立ててほしい。総合学域群を志す学生はさまざまなことに関心があるだろう。専攻を決めた後も多様な関心を持ち続けてほしい。


2021/05/20

『大学経営政策研究』を刊行しました

大学経営・政策コースを刊行母体として毎年発行している学術誌『大学経営政策研究』の第11号が2021年3月に刊行されました。投稿いただいた皆様のご努力に敬意を表し、御礼を申し上げます。合わせて、査読にご協力いただいた学内外の研究者の皆様に厚く御礼を申し上げます。

第11号の内容は以下のリンクから全文を読むことができます。

『大学経営政策研究』第11号を刊行しました

本誌は2010年度に、当時コース主任であられた山本清先生のリーダーシップで発刊され、以降、毎年度末に刊行してきました。数年前から私が編集委員長を務めています。投稿者、査読者の皆様に支えられて毎年定期的に刊行できることをたいへん有難く思っています。

今回は初めて、編集委員長としての「編集後記」を書きました。以下に転載します。本誌の紹介とともに、次号への投稿を考えている人は参考にして下さい。

本誌は、コース関係者の投稿が多いのですが、投稿資格は、所属・身分を問わず、すべての人にオープンにしています。掲載されるかどうかの基準は唯一、論文の質です。その「質」についても、一定の学術上の水準を保った上で、できるだけ多様な内容の論文を掲載できるよう努力しています。ぜひ、様々な所属・立場にある方々から広く投稿いただくことをお待ちしています。

第12号への投稿を考えている方は、2021年9月末までに執筆申込をして下さい(投稿締切は11月末)。今から投稿に向けた準備を進めてもらえるとありがたく思います。


編集後記(『大学経営政策研究』第11号、2021年3月)

『大学経営政策研究』第11号をお届けします。本誌への投稿論文数はここ数年、増加傾向にありましたが、今年度は一転して減少し、9本に留まりました。2020年に突如として生じたコロナ禍の影響が大きかったものと思います。ただし、教育学研究科紀要への投稿を行った学生が例年以上に多かったことももう一つの要因だったと思います。ここ数年の本誌への投稿数を記しておきますと、第8号は18本、第9号17本、第10号18本でした。次号では再び投稿数が昨年度までの水準に戻ることを期待したいと思います。

投稿された9本のうち、論文としての掲載に至ったのは2本でした。これもここ数年で最も少ない数でした。加えて、研究ノート4本、資料1本を掲載しました。本誌では掲載カテゴリーを3段階に区分しています。投稿者にはできる限り論文として掲載されるよう、十分な質の論文を投稿してほしいと思いますし、査読の過程で可能な限り修正を求めて、質を高める努力をしています。ただし、論文としての掲載に至らなくても、内容的に掲載の価値があると認められた場合は研究ノートや資料として掲載しています。もちろん、投稿者には論文としての掲載を目指してほしいと思いますが、幅広い研究成果を公表することも本誌のもう一つの役割であると考えています。

本誌には毎年、その年の大学経営・政策コースで書かれた修士学位論文の要旨を掲載しています。修士論文の数はここ数年、11~15本の間で推移していましたが、今年度は8本でした。ただし、これらのことは、今年度のコースの教育研究が停滞していたことを示すものとは考えていません。未曽有の状況の中で、一人一人が意味ある努力を積み重ねてきました。その努力の継続が、来年度は投稿論文数と修士・博士論文数の増加となって現われ、我々が嬉しい悲鳴をあげることを期待しています。

次号以降の投稿者へのお願いです。投稿する際には規程をよく読んで、書式や原稿分量を守って投稿するようにして下さい。論文を書き慣れていない場合は、コース教員をはじめとする指導者の指導を受けてから投稿して下さい。そのプロセス自体が各自の研究の進展にとって重要な機会となるはずです。

本誌の発行元は大学経営・政策コースですが、投稿はコース関係者に閉じることなく、広く募集しています。また、「経営・政策」と銘打ってはいますが、大学や高等教育に関わる論文であれば、投稿の範疇です。コース内外の多くの方々から投稿いただき、大学経営・政策を中心とする高等教育研究の活性化に寄与することが我々の願いです。

最後になりましたが、本誌は学内外の多くの査読者の方々のご協力によって成り立っています。ご多忙の間を縫って査読に応じて下さった研究者の皆様にこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。

『大学経営政策研究』編集委員長 福留東土




2021/05/14

『教養教育の日米比較研究』がオンライン公開されました

 広島大学高等教育研究開発センター(RIHE)の高等教育研究叢書として今年3月に刊行した『教養教育の日米比較研究』がオンラインで全文公開されました。ご関心のある方はぜひ以下のリンクから内容をご覧いただき、コメントをお寄せいただけると幸いです。


福留東土・戸村理・蝶慎一編『教養教育の日米比較研究』


執筆者と章構成は以下の通りです。


「はじめに―本書の狙いと構成」 福留東土

第1部 教養教育の理念と構造

第1章 「米国リベラルアーツ・カレッジの構造と経営―機関類型と財務による素描―」戸村理

第2章 「現代日本における教養系学部の特徴―包摂性・多様性・学際性・共通性―」栗原郁太

第3章 「米国の学士課程教育におけるアドバイジング―学修成果(Student Learning Outcomes)を促進する取組として―」蝶慎一


第2部 米国の大学における教養教育

第4章 「カリフォルニア大学バークレー校のリベラル教育」長野公則

第5章 「リベラルアーツ・カレッジのサービスラーニング―ミドルベリー大学を事例として―」黒沼敦子

第6章 「砂漠の中のリーダー育成―ディープ・スプリングス・カレッジの全人教育―」丸山勇

第7章 「女子大学の存在意義に関する一考察―スミス・カレッジのケースを踏まえて―」新井恵子


第3部 現代日本における教養教育

第8章 「早稲田大学国際教養学部のカリキュラム分析」本庄秀明

第9章 「理工系大学における教養教育―東京理科大学を中心に―」府瀬川欣信

第10章「国際基督教大学のリベラルアーツ教育―「構造化する構造」その理念と実践―」田中慶

第11章「知識経営の視点からのリベラルアーツ教育―自由学園最高学部の事例から―」横原知行

「おわりに―本書の知見の要約」福留東土